2012年12月26日星期三

米国のシェールガス革命に対抗するロシア

米国のシェールガス革命に対抗するロシア
石油や天然ガスは有限であり、また最近の中東情勢の不安定さ、さらに原子力発電を巡る議論が世界中で熱を帯びている中、エネルギー源の多角化という課題が世界各国にとって急務となっている。中でも近年注目を浴びているのが「シェールガス」だ。

 米国のシェールガス革命はロシアの天然ガス事業に大きな打撃となり、米ロ間の新たな緊張材料ともなっている。また、米国以外の、特にロシアの天然ガスの重要な「顧客」であった欧州諸国もシェールガスの開発に積極的に乗り出すにあたり、ロシアはその妨害を試みてきた。

 結論から言えば、ロシアはシェールガス革命の影響を危惧しながらも、環境問題等でシェールの開発が世界中で頓挫することを望んでいる。まだ過渡期で、ロシア政府がポジティブにシェール開発に携わろうとしている状況ではないとみていた。

 しかし、そんなロシアでも非在来型エネルギーに注目する企業が出てきたという。しかも、米国の採掘技術を導入するという動きもあるのだ。プーチン大統領も、世界的にシェールガス開発が進まぬよう環境擁護に熱心になる一方で、「ロシアのエネルギー企業はシェールガスの挑戦に対して準備することが必要だ」とも述べている。

 シェールガスをめぐる米ロ、欧州各国の動き、そして日本への影響をみていく。

■シェールガスとは?

 シェールガスとは、頁岩(シェール)層から採取される天然ガスのことをいう。天然ガスの貯留層が従来の砂岩ではないことから、「非在来型天然ガス資源」と呼ばれている。

 米国では1990年代から新しい天然ガス資源として重要視されるようになり、「水圧破砕法」と呼ばれる採掘法を導入して開発が進められている。「水圧破砕法」とは、インド等で生育しているでんぷん質の穀物・グアーの粉末からつくったゼリー状の液体を採掘井に高圧で注入し、地層内に亀裂を入れるという方法である。現状では、この方法がどのような爆弾よりも効率的かつ安価だとされている。

■米国のシェールガス革命の情報がロシアに広まることを警戒するプーチン

 世界各地でシェールガスの開発が試みられてきたが、商業生産が確立しているのは現在のところ米国だけである。シェールガスの原始埋蔵量(推定)はかなり大きいといわれており、米国で数百~千、世界では数千(tcf)に及ぶともいわれている。

 この、いわゆる米国の「シェールガス革命」のおかげで天然ガスの供給量が飛躍的に増え、価格が下がった。さらに、米国が国内でシェールガスを消費するようになったことで、石炭の余剰が出るようになり、その石炭は安価で欧州に輸出されることになった。それにより、欧州の天然ガス需要が減っただけでなく、近年、欧州はカタールからの天然ガス輸出への依存度を高めており、結果、ロシアの天然ガスの欧州向け輸出量が低下するという流れができてしまった。

 ロシアの天然ガス販売収入に影響が出るだけでなく、世界のガス価格が下落すれば、その損失分の補填のため、国内販売分の値上げもせねばならない。こうした現状から、国民がロシア経済の悪化を危惧して不満を高め、国内が混乱するのではと、プーチン大統領が危惧し、米国のシェールガス革命の情報がロシアに広まることを警戒していると言われている。

■冷戦的構図?シェールガスを巡るロシアとアメリカの攻防

 このように、シェールガスによる天然ガス価格の下落は、在来型の天然ガスの主要な産地であったロシアと中東に大きな打撃を与えると考えられた。米国がロシアの優良顧客である欧州に液化天然ガス(LNG)加工をするなどして安い天然ガスを輸出できるだけでなく、欧州諸国の中にもシェールガスを保有する国が少なくなく、欧州の天然ガス自給率が高まる可能性があったからだ。

 そのため、プーチン氏はシェール革命が欧州やロシアに及ぶことを嫌悪しているが、一方でロシアがそれに負けない対策を施すと意気込み始めたようにも見える。

 プーチン大統領は、当時首相だった昨年末に「欧州のシェールガス開発がロシアの国営ガス石油会社・ガスプロムにどれほど脅威になり得るか」という質問を受けたところ、急に不機嫌になったという。そして、ノートを乱暴にたぐり寄せて、「水圧破砕法」の手法を図に描いて示し、その図をペンでつつきながら、「欧州各国の人々が、地下水汚染の可能性というその環境リスクを理解すれば、破砕法の使用は禁止されるだろう」と警告したという(Financial Times  10 July 2012)。

 そして、今年4月11日に大統領に再登板する前の首相としての最後の演説では、「米国のシェールガス生産は世界の化石燃料市場の需給関係を再編することになる。ロシアのエネルギー企業はシェールガスの挑戦に対して準備することが必要だ」と述べ、「ロシアは技術開発による新しい波と外からのショックに対し準備する必要がある」と強調したという(山本隆三「エネルギーが変える世界」http://www.iza.ne.jp/event/energy/002.html)。

 他方、米国では、シェールガス革命でロシアに対して決定的に有利な立場に立てるという議論も出てきた他、冷戦的な構図を示す研究者も出てきた。たとえば、テキサス大学エネルギー研究所のタッカー氏は、シェールガスを巡り、世界が米ロの二極に分かれるかのような議論をしている。彼は「米国につくのがウクライナ、ポーランド、バルト諸国、恐らくイギリス。そして、米国が喪失するのが、ブルガリアとチェコであり、フランスは米国のやり方に反発する。ドイツは米ロを両天秤にかけ、ルーマニアを巡っては厳しい対立が起きるだろう」というのだ(http://www.novinite.com/view_news.php?id=141257)。

■ロシア天然ガスの「顧客」もシェールガス開発へ

 シェールガス開発に乗り出しているのはアメリカだけではない。欧州諸国も開発に乗り出しており、特に、ポーランド、フランス、ウクライナの埋蔵量の多さは特出していて、将来の有望なガス輸出国とも見られている。ここでロシアにとって懸念されるのは、ロシアの天然ガスの「顧客」がシェールガス開発をしてしまうことだ。

 フランスは原発依存が高いということもあり、ロシアがシェールガス開発を恐れる対象国の筆頭にあげられるのはポーランドとウクライナだろう。

 ポーランドは年間ガス消費量約150億立法メートルの半分以上をロシアから輸入しており、ロシアと歴史的に外交関係が緊張している同国としては、シェールガスにより、ロシアへの依存度を大きく下げたいところだ。ポーランドのシェールガスは需要300年分ともいわれている。国営ガス会社PGNiGは、2012年11月28日に国家の「非伝統的資源の開発促進策」の一環として、2013年に少なくとも10本、最大15本のシェールガス井を掘削する計画を明らかにした。

 ロシアにとって重要な顧客であるウクライナも欧州第4位のシェールガス埋蔵量があるといわれており、ロシアからの依存脱却のために、開発に乗り気であった。2012年5月11日には、西部のオレスク鉱区と東部のユゾフスカ鉱区のシェールガス探査・開発パートナーとして、英国・オランダのロイヤル・ダッチ・シェルと米国シェブロンの2社を選定したが、 ウクライナでのプロジェクトはあまりうまくいっていないという報道もあり、今後の進展が待たれるところだろう。その他、リトアニアなど、多くのロシアの「顧客」がシェールガスに熱い視線を注いでいる。

■環境問題でロシアの危惧ほど進まないシェールガス開発にプーチンも安堵?

 だが、実際のところ、ロシアが危惧したほど、シェールガス革命は広がっていない。何故か?

 「水圧破砕法」が環境に及ぼす悪影響が世界で問題視されているからだ。地下水の汚染などが問題にされると共に、地盤への影響も大きいことから大地震を誘引しうる危険性が問われている。そのため、フランスでは「水圧破砕法」を禁止し、他の多くの国が一時停止措置などをとっている。

 ロシアとしては、欧州諸国が皆、環境問題の立場から、シェールガス開発を禁止することを望んでいるのだろう。そのため、最近はプーチン氏も環境擁護に熱心らしい。

■ロシアもシェールガス開発に乗り出す

 このように、ロシアが危惧したシェール革命が欧州に広がらない現実はロシアにとっては喜ばしいことだ。だが、その一方で、ロシア自身もシェールガス開発に乗り出したという。

 実はロシアも非在来型エネルギーの保有国であり、長年シェールガスやシェールオイル開発を密かに試みてきた。たとえば、失敗に終わったが、ソ連石油省はシェール地層の核爆発実験を何度も行っていた。

 それでも、ロシアは、もっと安価に採掘できる石油・天然ガスを持っていたため、非在来型エネルギーの開発は棚上げにしていたが、最近、再び積極的になっているという。

 まず、今年の6月24日には、英国とロシアの合弁会社TNK-BPが、ウクライナでのシェールガスなどの天然ガス開発プロジェクトに向こう6~7年間に18億ドルの投資を行う方針を明らかにした。

 また、最近、ロンドンとシベリアにオフィスを持つルスペトロ(Ruspetro)社の最高財務責任者(CFO)、トム・リード氏はシベリアでの非在来型エネルギー開発を本格化すると発言した。

 これまで、ロシアは独自の手法で非在来型エネルギーを開発するとして、米国と技術競争を繰り広げてきたが、今後は、米国の採掘技術を導入するというのだ。米国の技術の踏襲は、大国としての威厳の喪失につながる一方、合理的、経済的には確実な選択である。ただ、ロシアの場合は、シェールガスよりむしろ、シェールオイルの採掘が主たる事業となる。

 実際、米国のエクソンモービルがロシアのロスネフチとの間で、シベリアのシェールオイル田で試掘井を掘削する共同事業契約を締結している。さらに12月6日、ロスネフチとエクソンモービルの両社長は西シベリアでのタイトオイル開発(地質学調査、最新の破砕技術を用いた水平・垂直井の掘削を含む広範な分野にわたる開発)のためのパイロット協定を締結した。これは、2011年8月に締結していた長期的戦略的協力協定の実施に向けた新たな一歩である。

 ロスネフチ51%とエクソンモービル49%の株式持分による合弁企業であり、ロスネフチが所有する1万平方キロメートル以上を占める23ブロックでプロジェクト実施する予定。ロスネフチと子会社は、スタッフと既存のインフラストラクチャを提供し、エクソンモービルは3億ドル以上の資金、地質学の専門家、最先端の技術など、商業生産を可能にするための生産管理の手法を提供する。北米で培った経験をロシアに提供するという、大きな動きである。掘削は2013年に開始予定だ。

 このような動きは企業レベルにとどまらない。ロシア政府は、年内に、オフショアやタイトオイルの石油資源を開発する企業には大幅な税控除を認める内容の法案を議会に提出する予定であるという。この税控除法案は、シェールオイルの商業レベルでの生産を可能にするために計画されているという。同法案が成立すれば、ロスネフチが享受できる利益は莫大となる。何故なら、同法によって、ロスネフチはシベリアのシェールオイル資源などの採掘が難しいタイトオイルを経済的に採掘可能のカテゴリーに変更することができるからだ。

■シェールガスと北方領土問題 日本に好機をもたらすという意見もあるが…

 アメリカのシェールガス革命はロシアにとってマイナス材料だといえる。だが、それによりロシアの天然ガスがだぶつくことで、ロシアはそれを日本に売りたがっているに違いないという理屈から、この現実を「北方領土交渉」における好機だとする報道もあった(たとえば、2012年1月4日『読売新聞』朝刊)。

 しかし、筆者はそのような議論はあまりに楽観的だと思い、同意できない。それでも、シェールガス革命やロシアのエネルギー事情などを、日本が外交政策を考える上で十分考慮していく必要があることは間違いない。

著者:廣瀬陽子(慶應義塾大学総合政策学部准教授)【関連記事】 アメリカ産LNG輸出なるか シェールガスを待ちわびる日本 4時間30分超のプーチンワンマンショー 「対米批判、安倍政権への期待、引退時期」について語る 「夢」と呼ばれる日本の 「革新的エネルギー戦略」と 欧州・米国の現実路線 米国シェールガスも契機に、日本もガス革命を 米国発「シェールガス革命」 日本の期待と根強い輸出反対論

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