居直ったNRA、年明けの銃規制論議は混沌へ向かう可能性も from911/USAレポート/冷泉彰彦
コネチカット州ニュータウン町で起きた、小学校での児童虐殺事件から一週間が経った21日の金曜日、事件が発生した午前9時半には全国で一斉に黙祷が捧げられました。ケーブルニュースTVの各局は、これを大きく取り上げ改めて悲痛なムードでの報道となりました。この一週間、最初は事件の詳細に関する報道が続き、やがて亡くなった児童や教師の葬儀が大きく取り上げられる中で、明らかにアメリカは喪に服していました。長い一週間でした。
銃規制論議ですが、就任以来、この問題に関しては「封印」していた印象のあるオバマ政権も、さすがに今回という今回は動き出しました。オバマ大統領は慎重な言い方ではありますが、銃規制に関する法律の制定を目指すという意志を明らかにし、20日の木曜日には、正式にバイデン副大統領を責任者として、来年1月をメドに具体的な法案策定を行うことになっています。議会でも、民主党のダイアン・ファインスタイン上院議員(カリフォルニア選出)が自動小銃と多弾マガジンの販売禁止を提案しています。
また、今回は自殺した狙撃犯がある種の発達障害であったという可能性があるということから、広義の精神疾患や障害に関して「もっと簡単に治療やカウンセリングが受けられるように」という方向での制度見直しが模索されるべき、そのような声も上がっています。
それはともかく、では今回という今回は懸案であった銃規制が実現するのでしょうか?
全米の関心は、銃保有者の圧力団体である「NRA(全米ライフル協会)」の動向に注がれました。事件直後から、NRAのSNSアカウントは銃規制推進派によって「炎上」状態になっていましたが、NRAは沈黙を守り続けました。そんな中、オバマ大統領が「先に動く」形となり、全米での世論調査では60%近い人が何らかの規制強化に賛成というデータも出るなど、規制へ向けての「空気」が醸成されたように思われたのです。
こうしたムードを受けて、NRAは18日の火曜日に短い声明を出し「子どもたちの安全を守るためには、あらゆる協力を惜しまない」と述べ、詳しくは金曜日に会長が会見するという予告をしたのです。これと前後して、共和党系の政治家などから「今回は銃規制に賛成する」というコメントが出たりしていました。例えば、マサチューセッツ州の上院議員で、先月の総選挙で敗北したスコット・ブラウン議員(共和)は、ジョン・ケリー議員が国務長官に転出した場合の補選出馬に意欲を見せていますが、自分は「自動小銃規制に賛成」という立場を明らかにしています。そうした「空気」が全米に広がったこともあって、多くのメディアからは「NRAもソフト路線になって、アサルトライフル(自動小銃)規制などには乗ってくるのでは」という観測も出ていました。
ですが、その21日の会見は、そうした希望を打ち砕くものでした。私自身も、自分の見方が甘かったことを痛感させられましたし、オバマ大統領がこの4年近くの間、銃規制に慎重だったのは「何故か」ということも痛いほど納得させられたのです。
もっと以前の、例えば93年から94年にかけて、当時のクリントン政権が自動小銃規制を成立させましたが、その政治的プロセスも難航を極めたことなど、アメリカが改めて「銃社会」であること、その中核にあるNRAは「銃保有の権利死守」のために存在していることを改めて思い知らされたのです。
とにかく、NRAはソフト路線に転じるどころか、居直ってきたのです。私はCNNの中継を見ていましたが、当初は10時45分からの会見が11時スタートに延びたこと、そして最初に挨拶に立ったデビット・キーン会長はほとんど何も言わず、具体的な内容に関するスピーチは上級副会長のウェイン・ラピエールという人にバトンタッチがされたところで、「どうもおかしい」という感じがしたのです。
その内容は、想像を絶するものでした。NRAは銃規制に同調するどころか、今回の惨事を契機として居直りとしか言いようのない提案を出してきたのです。それは、「子供の安全が最優先」だという理由で「全国のあらゆる学校に武装した警備員を配置する」というものでした。
ラピエール氏の発言は、最初から最後まで極めて強硬かつ挑発的でした。以下、特徴的な部分を紹介するとこんな感じです。
「悪人による銃の乱用を防止する唯一の解決策は、善人が銃で武装することだ」
「模倣犯の候補が全米にあふれている。子供を守るためには直ちに学校を守るべきだ」
「アメリカには悪人と異常な人物があふれている危険な社会だ」
「大統領は武装SPで守られている。アメリカという国は武装した軍隊が守っている。大切な子供たちの通う学校が武装して守られていないのはおかしい」
「教育現場をガン・フリー・ゾーン(銃のない空間)にした政治的誤りのために子供たちは死んだ」
「何かが起きても武装警官が何マイルも先にいて、駆けつけるのに何分もかかるのでは子供たちを守ることはできない」
こうした論理に加えて、「精神病歴のある人間に関しては、全国的なデーベースで管理すべき」であるとか「問題は銃ではなく暴力的なビデオゲームなどにある」などという主張を繰り返していたのです。
会見は「一切の質問には答えない」という条件で行われ、とにかくNRAサイドが一方的な主張を繰り返しただけでした。尚、途中に二回ほど「反対派」が大きな横断幕を掲げて抗議をする局面がありましたが、CNNの画面ではその横断幕(「子供を殺したのはNRA」というようなもの)をしっかり写して放映していましたし、反対派のシュプレヒコール(「NRAよ恥を知れ」とか「自動小銃の即時規制を」)といったものも、しっかり放映していました。
ですが、NRAサイドは「能面のように」こうした反対行動は無視して、一切のコメントはしなかったのです。ラピエール氏のスピーチの中で特に私が驚いた箇所が二箇所あります。一つは、この「ビデオゲームが悪い」という部分で、実際にネットに出回っている簡単なゲームを紹介した部分です。実際に記者会見場にはモニターが用意されており、ネットからダウンロードされたゲームの画面が紹介されたのです。
そのゲームは「幼稚園児をぶっ殺せ」というタイトルのもので、学校の校舎から顔を出している幼児を一人一人射殺するという内容で、命中の瞬間には血が飛び散るような作りでした。とにかく、コネチカットの惨劇から一週間、追悼のために全国で黙祷がされた90分後にこのような映像を平気で紹介できる神経が分かりません。
もう一つは、そのコネチカットの事件を紹介した部分です。今回の犠牲者は26人で20人が児童、6人が教師ということはアメリカでは誰でも知っている事実と思っていたのですが、このラピエール氏は「子供26人」という言い方をしていました。要するに、この事件の悲惨さを真剣に考えながらニュースを見て来なかったということを白状したようなものです。
もっとも、スピーチの中では「武装していない教師が犠牲になったのは犬死」というニュアンスにも取れる発言をしていましたから、亡くなった先生への同情も薄いのでしょう。「リベラルのイデオロギーの毒された教員が、学校に銃を入れないことが間違い」という主張もしていました。
さて、この会見へのリアクションですが、前の共和党全国委員長のマイケル・スチール氏がMSNBCで「これは極端に過ぎる」とコメント、リベラルな主張が基本の同局とCNNでは批判的なコメントが流れていました。ですが、少し経つとCNNのサイトでは扱いが小さくなっています。また保守系のFOXニュースでは論評を避けてサッサと別の話題に逃げていました。
NRAはやはり「本性を現した」のです。それは、同時に今後の銃規制論議が苦しい国論分裂というプロセスを避けては通れないということも示していると思います。この金曜日には、「財政の崖」をめぐる論議が暗礁に乗り上げたこともあって、何とも重苦しい暗い雰囲気が全米を覆いました。とりあえず、アメリカはクリスマス休暇に入りますが、新しい年は前途多難なスタートになりそうです。
【JMM】from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦【関連記事】 児童を巻き込んだ小学校での乱射事件で、アメリカは銃規制に目覚めるのか?:冷泉 彰彦 日本ではどうして「財政規律」の論議が少ないのか?:冷泉 彰彦 拝啓 大谷翔平投手殿:冷泉 彰彦 日本の衆院選はどの国の政権選択に似ているのか?:冷泉 彰彦 CIA長官スキャンダル、深まる一方の謎:冷泉 彰彦
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